スイスフランショックとは、スイス中央銀行の政策変更に伴う為替介入の撤廃によって発生した歴史的大暴落事件です。今回は多くのFXトレーダーを地獄に叩き落した事件の顛末について解説するとともに、同様のハプニングへの備え方についてもお伝えします。
スイスフランショックの原因
はじまりはリーマンショックから
2008年9月15日、巨大金融機関リーマン・ブラザーズが人類史上最大の60兆円もの負債を残して破綻、「リーマンショック」と呼ばれる世界同時金融危機が発生しました。
世界中に不況の連鎖が広がり各国で財政赤字が膨らむなかで、とくに影響が大きかったのはギリシャでした。
債務不履行(デフォルト)が懸念されるギリシャ
ギリシャは政権交代に伴い前政権が粉飾していた莫大な財政赤字が明らかになったことから、経済破綻の危機を迎えました。そしてギリシャの財政問題を引き金に、南米やユーロ圏全体に債務危機が連鎖的に広まっていきました。
ギリシャの信用力は大きく低下し、同国の国債を大量に抱えていた欧州諸国の金融機関も崩壊の危機が懸念される事態に陥りました。
ユーロを売って安全なスイスフランを買う動き
スイス中央銀行の為替介入のきっかけは2011年の「ユーロ危機」に伴うスイスフランの高騰によるものです。欧州の経済危機やデフレを背景に、為替市場ではユーロを売ってスイスフランを買う動きが強まりました。スイスフランは安全資産として「有事の避難通貨」の性質を持っていたからです。
その結果、スイスフランは(2008~2011年)にかけて40%も値上がりし、輸出産業への悪影響を懸念したスイス中央銀行は、スイスフランの高騰対策のために2011年9月6日に(1ユーロ=1.20フラン)を上限とした無制限為替介入を行うことを決定しました。
スイスフランショック前夜の状況
スイス中央銀行の為替介入
スイス中央銀行はスイスフランショックが起こる2015年までの約3年間にわたって、景気対策のために(1ユーロ=1.20スイスフラン)を上限とする無制限為替介入を行いました。
2015年当時、為替市場はユーロ圏の景気後退やデフレを背景に、欧州中央銀行(ECB)が国債を買い入れてユーロを供給するという「量的緩和」の観測が強まっていました。これによってユーロ安(フラン高)の動きは段々と強まり、スイス中央銀行が為替介入を強めていくというサイクルに限界が訪れようとしていました。
スイス中央銀行による無限為替介入の限界
為替介入によって市場へ紙幣をばら撒くことで当座は固定相場を維持することができますが、その代償として大規模な金融緩和を招き入れることになります。つまり、為替の安定化を半ば強引に図ろうとすれば、独立した金融政策を諦めなければならないわけです。
ついに為替介入の限界が訪れました。2015年1月、スイス中央銀行はフランの上限撤廃を決定し、これがスイスフランショックの直接の引き金になったのです。
相場は「フラッシュクラッシュ」になった
2015年1月15日、午前10時29分。為替レートは3年前からほぼ変わらない(1ユーロ=1.20スイスフラン)でスタートしました。ところがその1分後に激震が走ります。スイス中央銀行がフランの対ユーロ上限の撤廃を発表したのです。
絶対に下抜けすることがないと思われていた(1ユーロ=1.20フラン)のサポートラインは見事にブレイクされ、市場は瞬く間に恐慌状態に陥りました。数分のうちにユーロは一気に史上最低の(0.85フラン)まで急落(つまりスイスフランの大暴騰)しました。
一気に価格が底抜けしたスイスフランでしたが、底値となる(0.85フラン)を記録した後はすぐに10%以上回復し、終値は(0.97フラン)に、そして翌日16日には(1.02フラン)まで値を戻しています。このように相場が瞬間的に急落し急回復する現象を「フラッシュクラッシュ」と呼びます。
スイスフランショックの結末と得られた教訓
突然のユーロ暴落でFX会社が破綻
スイスフランショックによって世界を代表する金融機関が莫大な損失を被り、破綻するFX業者も続出しました。FXの取引システムを提供するFXCM社は260億円の損失を出し、世界最大の為替ディーラーであるシティグループも170億円を超える巨額の損失を出すこととなったのです。
「ロスカットが正常に機能しない」という恐怖
FXでは基本的に強制ロスカットのシステムがあるため、トレーダー自身が借金を背負ってしまうような損失を被ることはあまり考えられません。しかし、スイスフランショックによる相場の急変はわずか一瞬にして起こったため、想定上のロスカット金額と実際のロスカット金額との乖離が起こり、証拠金がマイナスになるケースが続出しました。
この日の為替相場は、スイスフランが高騰して(3,800pips)も値が動きました。このとき、FX会社の決算システムは正常値でロスカットが機能せず逆指値注文も通りませんでした。あまりの急変によって「値飛び」したことにより、(1.00スイスフラン)という予想外の価格でロスカットが行われてしまったのです。
ほとんどのトレーダーは(1.20)手前でエントリーしていたはずですから、ロスカットにより証拠金をすべて失うどころかマイナスに割り込んでしまうケースが続出しました。その結果、トレーダーがFX会社に対して直接借金を抱える形になり、追加で証拠金を入金しなければならなくなったのです。
充分な証拠金の準備などリスク管理が重要
このような大事件が発生するリスクに備えて、トレーダーとしては予め充分な証拠金を蓄えておきたいところです。その通貨ぺアと相関性の低い通貨をリスクヘッジとして保有しておくなどの対策も有効に働きます。
普段からレバレッジによるリスクの許容度を認識し、重要な経済指標発表前のポジション保持にはとくに気をつけるようにしましょう。
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