「空売り」という行為は「モノを買う」という概念から逸脱しているため、株式投資やFXの初心者にとっては馴染みがない取引だと思います。そこで今回は、初心者がいまさら聞けない「空売り」の仕組みについて、わかりやすく解説します。
空売りとはなにか
「空売り」は信用取引の一種です。FXのほか、株式投資でも「空売り」することが可能です。株の場合は、証券会社から株式を借りて売り建てる取引のことを指しますが、FXの「空売り」も同じ仕組みです。
持ってもいない外貨を売るというのはピンとこないかもしれませんが、外貨をFX会社から借りて売り、あとで買い戻して返すというイメージをするとわかりやすいかもしれません。ちなみにFXでは「空売り」とはいわず「売りポジション」といいます。
なぜ「売りポジション」という仕組みが用意されているのか
FXで一番シンプルな取引スタイルは、外貨を日本円で買って(「買いポジション」といいます)、円安が進んだところで売るトレードです。
(米ドル/円=100円)のときに1万ドルを買って(105円)になったところで売れば、(105-100)×1万=(5万円)の利益を出すことができます。
「売りポジション」で利益を出す仕組み
しかし常に為替が変動するFXでは、いつも円安になるとは限りません。したがって円高が予想されるケースでは、「売りから入って、あとで買い戻す」という「空売り(売りポジション)」の仕組みが用意されています。
たとえば(米ドル/円=100円)のときに1万ドルを売って、単価(95円)になってから決済すれば、(100-95)×1万=(5万円)の利益が出る計算になります。
株式投資とFXの「空売り」のコストは決定的に違う
基本的に「空売り」の仕組みはどちらも同じですが、取引にかかるコストが異なります。
FXで「売りポジション」を建てる際にかかる費用
・スプレッド⇒通貨の買値と売値の差額で実質的な手数料 ・スワップポイント⇒通貨ペア間の金利調整額
FXでは「買いポジション」と同額のわずかな費用で「売りポジション」を建てることができます。
なお、超低金利の日本円で外貨を買う場合には、ほとんどのケースでスワップポイントは収益になりますが、高金利通貨で低金利通貨を買う場合は逆にスワップポイントを支払う必要があります。スワップポイントは日々支払いが続くため、ポジションを保有し続けるとコストが膨らんでいくので注意が必要です。
株式投資で「空売り」をする際にかかる費用
・売買委託手数料⇒証券会社に株式売買を委託する際に発生する費用 ・貸株料⇒証券会社から株を借りるために支払う費用 ・逆日歩⇒売り方が買い方に対して支払う費用 ・管理費⇒新規の約定日から1か月後、建玉ごとに発生する費用
証券会社にもよりますが、このように株式投資では多くの場合「空売り」すると取引コストが高くなってしまいます。
株にはないFXの「空売り」の魅力と注意点
株式投資における「空売り」はハードルが高い
株式投資でも信用取引というものをすれば「空売り」をすることができます。しかし、「空売り」が許可されるためには取引実績を積む必要があり、証券会社に毎日借賃として手数料を支払わなければなりません。
株式投資は基本的に値上がりを前提とした取引なので、FXほど気軽に「空売り」ができないのです。
多くの場合スワップポイントは利益になるが
日本は世界でもトップクラスの超低金利なので、政策金利の高い国の通貨を保有することによってスワップポイントを得ることができます。とくに金利が高いトルコリラや豪ドルなどは、スワップポイント目的の長期運用向け通貨として人気があります。
超低金利の円は、「買ってから売る」場合はスワップポイント的に有利に働きますが、売りから入る場合はほとんどの場合で不利になります。
たとえば、金利(24.00%)のトルコリラをあえて「空売り」して金利(0.1%)の円を買うと、スワップポイントの金利差(23.9%)を決済するまで毎日支払い続けなければなりません。実際問題として、決済時の為替差益でスワップポイントのマイナス分を埋めることは難しいのではないでしょうか。
利益は限定的にとどまる
FXでも株式投資でも商品価格には理論上上限はありません。しかし下限は価格が0になるときです。つまり、「売りポジション」による利益には上限があるということになります。したがって、大きな利益を狙いたいケースでは「売りポジション」は向いていない手法といえるでしょう。
「売りポジション」をうまく活用しよう
費用を抑えた取引ができるという点でも、FXの「買いポジション」と「売りポジション」の使い分けは積極的に使いたい魅力的なテクニックです。その最大のメリットは下げ相場でも利益が狙えるという点です。
また、「売りポジション」は相場が過熱気味のケースや経済が衰退している場面において有効な投資手段になり得ます。価格上昇リスクやスワップポイントの支払いによる損失発生など注意すべきポイントもありますが、それらをしっかり確認した上で「売りポジション」をうまく活用しましょう。
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