FXにおける「サヤ取り」とは、「売り」「買い」ポジションを同時にもつことで、2つの価格差(サヤ)から利益を狙う投資手法のことです。「裁定取引」や「アービトラージ」ともいいます。
今回はサヤ取りの仕組みを3つに分類して詳しく説明します。少し高度なテクニックなので初心者にはややハードルが高いですが、「FXで利益を出すためには、こんなやり方もあるのか」という驚きもあるはずです。FX学習のトレーニングとしても、ぜひ参考にして下さい。
「サヤ取り」とはどんな手法か
「サヤ取り」の基本は「両建て」である
通常のFXトレードでは「上がりそうな通貨を買う」「下がりそうな通貨を売る」というイメージで取引しますが、サヤ取りでは「下がり過ぎた通貨を買う」「上がり過ぎた通貨を売る」という「両建て」が基本的な考え方になります。「下がり(上がり)過ぎ」についてはわかりやすく説明しましょう。
隣同士のライバル八百屋があったとしたら
A店では大根を1本100円で売っていますが、隣のB店では同じような品質の大根が1本150円で売られています。Aの値段が安すぎるのか、それともBが高いのかはよくわかりませんが、隣にあるお店同士ですから、この価格差は一時的なもので、時間が経過すれば値段が近づいてくるのではないかと想像できます。
これをFXに置き換えると、「似たような値動きをする異なる通貨ペア」の価格差にたとえることができます。お互いに似たような動きをする通貨ペアは、一時的に価格差が開いたとしても、いずれ近づいていくだろうという想像が働きます。
この読みが当たれば、価格差が閉じるタイミングを狙って利益を上げることができるはずです。
相関性の高い通貨ペアで成立するサヤ取り
(豪ドル/円)と(NZドル/円)で考えてみると
たとえば(豪ドル/円)と(NZドル/円)はオセアニア地域の隣国であり、似たような値動きをする(相関性が高い)通貨ペアです。
円に対しても極端に豪ドルが高くなったり、NZドルが安くなる可能性は考えにくく、実際に豪ドルが上昇トレンドならNZドルも上昇トレンドに動きます。
豪ドルが上昇しているときにNZドルが下落するとサヤが発生しますが、相関性の高いこの通貨ペアでサヤが発生した場合には、いずれ縮小するはずです。
具体的なサヤ取り戦術
①(豪ドル/円)を売る ②(NZドル/円)を買う
①と②のポジションを同時に保有してサヤが縮小するのを待ちます。
このあと、(豪ドル/円)が下げるか(NZドル/円)が上がればこの売買で利益が出ます。どちらも上手くいけば大きな利益になりますが、かりに(豪ドル/円)が下がらなくても、(NZドル/円)が上がれば利益を出すことができます。
なぜなら、このトレードでは片方のポジションの価格変動だけで利益が確定するのではなく、2つのポジションの価格差が縮まることで利益が出る仕組みだからです。
注意しておきたいこと
ここで注意すべき点があります。変な言い方ですが、サヤが開いたというのはトレーダーが勝手に考えているだけのことで、実際にはサヤなど存在しません。実際には豪ドルは強いから上がり、NZドルは弱いから下落するという事実しかありません。
このトレードでは円を中心にして豪ドルとNZドルの価値が変動しています。つまり(豪ドル/NZドル)という通貨ペアをトレードしているのと同じことなのです。したがって、この通貨ペアのチャートをチェックし、2つの通貨の強弱がはっきりしているチャートであれば、サヤは縮小しづらい傾向であることが予想できます。
スワップポイントのサヤ取り
次のサヤ取り手法は、スワップ(金利差)を用いたサヤです。異なる通貨ペアで両建てをする場合には、使う会社は同じでも違ってもOKですが、スワップサヤ取りは「同じ通貨ペア」を「異なる口座」で両建てにします。FX会社ごとに異なるスワップポイントの差額(サヤ)を狙う作戦です。
スワップポイントの異なる2つの会社で考えてみると
たとえば、(ドル/円)を例にして考えてみましょう。
①C社の買いスワップ⇒(+50円) ②D社の売りスワップ⇒(-42円)
この場合、サヤは(8円)発生します。
C社でドルを買い、D社でドルを売る両建てをすると、スワップのサヤが1日ごとに(8円)発生し、毎日受け取ることができます。1年間10万通貨ドルを持ち続けると29,200円になります。
ちなみに、両建てしているので価格変動の損益は相殺され、常にプラスマイナス0です。
注意しておきたいこと
リスクゼロの安定的な投資のように思えますが、注意しておきたいのは、スワップはそれぞれのFX会社で毎日変動するものだということです。サヤが逆転するケースもあり、その場合はすぐにポジションを決済しなければなりません。
また、スワップポイント狙いではそれほど大きな利益は発生しにくいことも理解しておきましょう。
業者間のサヤ取り
業者間のサヤ取りは10年から20年前に流行った手法です。当時は、まだ金融庁による法規制が行き届いておらず、FXの商慣習も曖昧だったため、業者も投資家も好き放題やっていた時代でした。
業者間のサヤとは、同じ通貨ペアにおける業者のレート差を狙った手法です。レートの高いE社で売り、同時にレートの安いF社で売ります。
ずっとこの差が開いているなら利益は出ませんが、同じ通貨ペアの価格なら、いずれレートは同じ位まで閉じるはずです。そして、実際にそうなります。
E社が安くなるか、F社が高くなるかはわかりませんが、どちらのレートもほぼ同じに近づいてきたところで同時に決済します。その瞬間に利益が出るというわけです。
現在はこの手法はほとんど見られない
かつては取引参加者が少ない早朝や、経済指標時など相場が急変する時に業者間のサヤが発生しやすいといわれていました。当時はシステムが脆弱な業者が多く、意図的にレートをずらす業者もあったため、このようなことが起こったようです。
しかし現在はこのような業者間のズレはほとんどありません。ときどきシステムが固まって不自然なレートを見ることはありますが、このサヤ取り手法を試す機会は少ないでしょう。
「サヤ取り」は通貨間の強弱を利用した取引に生かせる
サヤ取りとは少し異なりますが、サヤ取りを応用したトレード方法を紹介します。サヤ取り手法のひとつに、上がり過ぎた通貨ペアを売り、下がり過ぎた通貨ペアを買う方法を説明をしました(豪ドルとNZドルの例)。
このときの分析方法を応用して、たとえば(ドル/円)が上昇している時に、ドルが買われているのか、円が売られているのかを知るために、(ユーロ/ドル)と(ユーロ/円)をセットで見る方法があります。これによって、ドルと円の強弱を見ることができるのです。
・円はドルに対して弱く、ユーロにも弱い ・ユーロはドルに強い
たとえば、このような現象を発見できれば、(ユーロ>ドル>円)といった関係性がわかり、(ドル/円)よりも(ユーロ/円)のほうが、値動きが大きいことが理解できます。このような見方も市場分析に取り入れると、FXの世界がさらに広がると思います。
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