為替の大暴落によってトレーダーが莫大な損益を被るのは「ロスカットが間に合わない」ケースです。リスク管理ができているトレーダーの多くは、一定の含み損が発生すると自ら損切りしたり、システムによってロスカットするといった対策をしているのですが、大損害は損切りやロスカットの機能が間に合わないことによって発生します。
今回はスイスフランショックを例に、ロスカットが間に合わないメカニズムについて解説します。
スイスフランショックが発生
2015年1月15日、スイス国立銀行は突然為替介入の中止を発表し、長らく(ユーロ=1.2スイスフラン)に固定されていたスイスフランはその日のうちに高騰しました。同日中にスイスフランは(ユーロ=0.8517スイスフラン)という過去最高値を記録し、ユーロに対して(41%)も上昇したのです。
スイスフランの暴騰に連鎖して世界の株式市場は軒並み下落し、多くのFX会社が倒産するなど為替市場も大混乱に陥りました。
多額の損失を被ったトレーダーの阿鼻叫喚
スイスフランが暴騰した翌日以降、大手ヘッジファンドの「エベレスト・キャピタル」が口座を凍結したり、「ドイツ銀行が約176億円の損失を被る」といったニュースが流れ、ネット上でも大損失を被った投資家の阿鼻叫喚のコメントが並びました。
スイスフランの高騰の影響は、ユーロだけでなく米ドル、日本円にも波及しました。対円で見ると、1月15日の始値は(スイスフラン=114円台)だったのが、一時は(157円80銭台)をつけ、一瞬のうちに、対円で(40%)も高騰したのです。このことにより、日本国内のトレーダーも影響を受けました。
スイスフランで大儲けしたトレーダーもいた
為替相場は相対的なものなので、スイスフランを買っていれば物凄い利益が出たはずです。証拠金100万円(レバレッジ25倍)で取引をしていれば、スイスフランが(114円⇒157円)の値上がりによって、(2500万円)の元本が(3454万円)まで膨らむ計算になります。つまり、瞬時に(954万円)の利益を手にすることができたことになります。
ただし、後ほど解説しますが、実際にはスイスフランの取引自体がフリーズしてしまい、必ずしも思ったようなレートで決済できないケースも多くあったのです。
ロスカットの仕組みと役割
FX会社によって異なりますが、証拠金(保証金)に対する「含み損」が(50~80%)に達した場合に、FX会社によってトレーダーが保有しているポジションが強制決済される仕組みを「(強制)ロスカット」といいます。
ロスカットは、ポジションが一定の見込み損失に達した時点で強制決済することによって、それ以上損失が膨らまないようにする仕組みであり、トレーダーとFX会社の双方にとっての安全弁の働きをしているといえます。
ロスカットが作動しないことによって損失が拡大した
ところがスイスフランの暴騰は瞬時の出来事だったため、損失額が一定以上に膨らむことを防ぐロスカットが機能せず、多くのトレーダーが莫大な損失を被る結果となりました。なぜ、このような状況になったのでしょうか。
なぜロスカットが作動しなかったのか
スイスフランショックではロスカットが機能しませんでした。
なぜなら、ユーロが(=1.20スイスフラン)から(0.86)になる過程で、本来であれば市場に一定数いるはずの「スイスフランの売り手」が、ほとんど消えてしまったからです。
スイスフランの無制限売り介入を中止するというサプライズニュースによって、スイスフランの値上がり必定と見たポジション保有者が売り注文を引っ込めてしまったのです。
売り手がいないと買えない
「スイスフランは下がる」というシナリオに基づいてスイスフランを売っていた投資家は、損失を抑えるためにスイスフランを買い戻して売りポジションを清算しようと試みます。ところがFXでは、買いたいと思っても売り手がいなければ注文は通りません。
FX各社ではスイスフランの価格を提示できなくなり、取引が全くできない状態になりました。その後、取引ができる状態までシステムが回復した頃には、ロスカットレベルを遥かに超えた値が付き、そのレートでロスカットが発動しました。
ロスカットが間に合わないケースは頻発するわけではないが
スイスフランショックのような出来事は、極めてまれなケースといえるものです。しかし、現実的にこのような為替の大変動によるロスカットのフリーズ状態はときどき発生し、証拠金がマイナスになって破産する人を生み出します。
この問題に対する決定的な対策はありません。急激なマーケットの動きから財産を守るためには、ロスカット機能を過信せず、常にリスクヘッジをしながら取引をおこなうしかありません。要するに、トレーダー自身が取れるリスク許容度を超えたポジションは絶対に持たないことが最善の対策ということになります。
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