ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、欧米や日本など西側諸国が制裁を発動しています。その結果、早くもロシアルーブルは記録的な下落を記録するなど、ロシア経済に大きな歪が生まれています。
今回は西側各国の金融制裁のメカニズムから、制裁が為替に及ぼすインパクトについてわかりやすく解説します。
ロシア経済の特徴
農業と鉱物資源で成り立つロシア経済
ロシアというのは元来農業国で、石油や天然ガス、あるいは兵器以外の工業製品は、ほとんど知られていません。GDPの60%を国営企業が担い、融資の70%を国営銀行が握るロシア経済は、資源価格がダイレクトに影響する脆弱な図式になっています。
巨額の外貨保有
その一方で、ロシアは巨額の外貨を保有しています。2021年1月時点で、ロシア政府が保有する外貨は過去最大規模の6300億ドル(約74兆円)に達します。これは世界4位の外貨準備高です。
ただし、ロシアがドル建てで保有する外貨の比率は過去5年で(40%)から(16%)へと比重を下げていて、あらたに(13%)を人民元で保有しています。これらは、アメリカが主導する制裁からロシア経済を守るための措置とされています。
SWIFTからのロシア排除
ロシアに対する経済制裁として、欧米諸国と日本は銀行間国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部の銀行を排除することを決定しました。SWIFTは「経済の核オプション」とも呼ばれる、経済制裁における最終手段です。
SWIFTの仕組み
たとえば日本のA銀行から海外のB銀行に送金する場合、AおよびB銀行はそれぞれの国にある「中継(コルレス)銀行」と呼ばれる決済代行銀行を介して取引をおこないます。SWIFTには、これら一連のフローの中でコルレス間の送金情報を送受信するネットワークを構築しています。
SWIFTからの排除のインパクト
ロシアの銀行のSWIFT排除が大きく報じられていますが、SWIFTから離脱しても決済そのものが不能になるわけではありません。SWIFTを経由せずに伝票をやりとりする旧式の決済手法を使って交易することは可能ですが、取引のための時間やコストがかさむのです。
ロシアの主要輸出品である石油や天然ガスなどの決済が遅れるとともに、ロシアに輸出する工業製品の代金の受け取りが困難になると、外国企業はロシアとの取引を忌避するようになります。このような事情から、SWIFTから排除されることによって、ロシアのGDP(国内総生産)は(5%)減少するという試算もあります。
G7のロシア金融包囲網
アメリカ政府は、ロシア中央銀行とアメリカの金融機関によるドル建て取引を禁止する追加制裁を発表しました。アメリカ以外のG7各国もこれに追従し、ロシア中央銀行が各国の中央銀行に預けているドルやユーロなどの外貨を凍結する措置を打ち出しました。これはロシア経済にとって致命傷になる可能性が高いです。
日本銀行もロシア中銀の資産凍結を表明しました。これによって、ロシアが保有する円建ての外貨(2021年時点で4~5兆円規模)はロシアや他国の金融機関に送金できないことになりました。
ロシアの金融防御策の成否
G7の外貨凍結とロシア中央銀行による為替介入
そもそも、なぜ外貨準備が必要なのかといえば、自国通貨の暴落を防ぐためです。ルーブルが暴落すると輸入物価が上昇し、最終的にベネズエラのようなハイパーインフレに陥る可能性が高まります。あらゆる物資が不足し、治安の急速な悪化も避けられなくなるでしょう。このような事態は避けなければなりません。
その防御策として、ロシア中銀は為替介入をおこない、ルーブルを買い支える必要があるのです。このとき外貨が凍結されてしまうと、ロシア中銀は通貨防衛のための為替介入が充分にできなくなってしまいます。
ロシア政府の必死の防御策
そこで打ち出されたのが、金利の引き上げです。ロシア中銀は政策金利を(9.5%)から一気に(20%)に引き上げると発表し、国債への投資を促しています。そのほか、輸出企業に対して対外貿易での売上高の(80%)に相当する外貨を売却するように義務付け、必死になって外貨を集めようと苦慮しています。
さらに、ロシア中銀は「無制限の資金供給」に踏み切る可能性を示唆しています。つまりルーブルの無制限発行です。しかし、無制限にルーブルを市場に出せば、結果的にルーブルの暴落がすすみ、かえってハイパーインフレを招く可能性が高まります。
これからロシアはどうなるのか
ロシアのデフォルトの可能性
ロシアのドル建て国債の未償還残高は330億ドル(約3兆円)あります。償還不能に陥ればデフォルト確定です。早期の戦争終結と制裁解除がない限り、ロシアがデフォルトに陥る可能性はかなり濃厚だと思います。ロシア国債を保証するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)はロシアのデフォルト(債務不履行)の確率を(56%)と試算しています。
デフォルトのその先
戦争の状況によって予断は許しませんが、戦闘が泥沼化すれば世界的なインフレは長期間続くでしょう。為替についていえば、ルーブルは極限まで下落し、非常時に強いドルや円は値上がりすると考えられます。
その先については、さらに予測が困難です。決済できなくとも、ロシアには原油や天然ガスという商品があります。やがて戦争が終結して政情が安定すれば、原油や天然ガスは市場に放出されることになります。これがどれぐらい先のことかはわかりませんが、一気にこれらの鉱物相場が下がる可能性はあるでしょう。このことは頭の隅においていいと思います。
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