「ゼロサムゲーム」は「ゲーム理論」と呼ばれる経済理論のひとつで、参加者の得点と失点の総和(サム)が「0」(ゼロ)になるゲームのことです。
AB二国間の為替の取引をおこなうFXでは、通貨Aのレートが上がれば通貨Bのレートが下がり、市場全体の価値が上がるわけではないので、ゼロサムゲームが成立します。ちなみに同じ投資という切り口でも、株式市場は企業価値によって市場全体の大きさが変動するので、株式投資は「ノンゼロサムゲーム」となります。
今回はゼロサムゲームという切り口から、FXの必勝法の可能性について検証したいと思います。
「ゼロサムゲーム」と「ノンゼロサムゲーム」
ゼロサムゲームとは
「ゼロサム」とは合計がゼロになるという意味です。たとえば4人のギャンブラーがポ-カーを始めたとします。最初に持っているチップの数は同じです。しばらくゲームをおこなうと、各自が勝ち負けによって保有するチップが変動します。このとき、チップの変動は4人の中での移動に過ぎず、4人の総チップ数に変化はありません。これが典型的なゼロサムゲームです。
ノンゼロサムゲームとは
ある新興企業が上場することになり、株が売り出されました。その後、この企業は大いに儲けて総資産額が大きくなり、それに連れて株価もどんどん上昇していきました。このケースでは、最初に株を買った人全員が勝者となります。
最初に株を買った投資家Aさんが利益確定のためにBさんに転売して利益を得ました。その後も引き続きこの企業が発展を続けたので、途中で買ったBさんも儲かりました。要するに、この企業の価値が上がっている限り、ゲーム自体がプラスサムになります。
FXはゼロサムゲームか
FXは通貨を買う人と売る人がいて成立します。ある通貨ペアを買った人が利益を得れば、売った人はその分だけ損をすることになります。売買損益だけでなく、スワップポイント(金利差)でも同様です。かならず反対売買を伴うという点で、FXはゼロサムゲームといえるでしょう。
囚人のジレンマとゼロサムゲームの必勝法
囚人のジレンマ
AとBが共犯の疑いで逮捕され、取調室で別々に事情聴取を受けている状況です。取り調べの刑事から3つの条件が提示されました。
・2人とも自白しなければ、2人とも懲役1年 ・2人とも自白すれば、2人とも懲役5年 ・1人が自白すれば、自白した方は釈放、自白しなかった方は懲役10年
Aからすると、気になるのはBが自白するかしないかです。自分(A)が真っ先に自白すれば釈放されるかもしれませんが、Bも自白した場合は2人とも懲役5年です。また、Bが自白し、自分(A)が自白しなければ懲役10年を喰らってしまいます。
したがって、AはBが自白してもしなくても「自分が自白(釈放もしくは懲役5年)」したほうが得をしそうに思えます。
しかし、実は一番リスクが小さいのは2人とも自白しないことで、これならお互いに懲役1年ですみます。「囚人のジレンマ」では、もし互いに「自白しない」ことを誓い合うことができれば、リスクを最小限に抑えることができるのです。
ゼロサムゲームの必勝法
ライバル会社同士の価格競争で考えてみましょう。互いの幸せは2社とも価格を下げないことですが、競争である限りダンピングしないと負けてしまいます。このような負の循環に陥ると、お互いの「利益の和」はどんどん削られていきます。
両社が結託して価格を下げないのがベストですが、談合やカルテルといった違法行為になってしまいます。しかし、この価格競争を解決する合法的な方法があります。それは両社が合併することです。
ゼロサムゲームから導き出されるFX必勝法とは
(+1)になったらゲームをやめればいい
ゼロサムゲームとは、すなわち「期待値ゼロ」ということです。
コインを投げて表がでたら(+1)、裏が出たら(−1)というゲームを考えてみましょう。このときの期待値はゼロです。しかし、コインを投げる回数を増やせば増やすほど(+1)に到達できる確率が積み上がっていきます。
つまり、このコインゲームで勝つためのポイントは(+1)になった時点でゲームをやめるということです。目標に達したらスパッとやめるのがゼロサムゲームで勝つ方法といえます。
FXに当てはめてみるとどうか
FXにおいても、「少し勝ったらすぐに利益を確保する」という必勝法が唱えられることがありますが、現実的には必勝法とは言い切れません。なぜなら、FXは(±1)のコインゲームとは異なり、トレード回数を増やすと、いつかは大負けする可能性がでてくるからです。(+1)になったら絶対やめる戦略は、小額の勝ちの確率をあげるかわりに、大負けするわずかな可能性を受け入れているのです。
こんな意見もある
ある統計物理学者が、「ゼロサムのギャンブルがあったらやるべきか?」という問いに対して、このように答えました。

「期待値ゼロといえどもプラスとマイナスの間を揺らいでいるので、プラスに揺らいだところでやめればよい。だからそのギャンブルをやるべきである」
「ちょっと勝ったら勝ち逃げをしろ」という意味です。ギャンブルで勝っているときの「やめ時」は難しいものですが、「ほどほど勝ったらやめる」というのは、必勝法ではないにしても根拠のあるということなのでしょう。課題は「ほどほど」のレベル設定の難しさです。
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