これまでも、猫道場は韓国の異常ともいえる投資熱について解説してきましたが、とくに働き盛りの30代の投資行動が異常な高まりを見せています。今回は、韓国の30代の投資熱の状況をお伝えし、今後の為替への影響についても考察します。
普通の人たちの異常な借金
際立つ韓国の家計借金
韓国銀行(韓国の中央銀行)の資料によれば、2021年末基準における韓国全体の債務者の「家計債務比率(LTI)」は(238.3%)で、前年比から(9.3ポイント)上昇したとあります。このうち30代の債務者のLTIは(17.8ポイント)増の(280%)で、ほかの年齢層に比べて、とりわけ債務比率が高く、増加幅も大きかったということです。
家計債務比率(LTI)が示すもの
LTIが(280%)というのは、収入の(2.8倍)の借金があるということです。日本のLTIは(60%台)ですから、韓国の異常性は明確です。また、韓国の30代の債務者の「可処分所得に占める返済額比率」は(41.5%)に達しています。可処分所得の(40%)以上を借金の返済に充てているわけです。
韓国の家計債務増加の原因
低金利政策
韓国では長い間、低金利政策が採用されていました。2008年8月に(5.25%)まで上昇した韓国銀行の基準金利は、2019年12月までに(1.25%)まで低下しました。不動産価格が上昇するなかで、貸出需要も増加し、家計債務は増加していきました。
その後、不動産価格の高騰やアメリカの政策金利の上昇をうけて、2022年に入って韓国銀行は基準金利の引き上げに転じています。
住宅ローン貸出規制緩和
韓国政府は2014年に不動産市況活性化のために、家計貸出の審査基準を緩和しました。住宅を購入するときには、物件価格の(70%)、所得の(60%)を上限とする借り入れが可能となりました。この政策はマイホーム需要を高めるのではなく、不動産投資を招く結果となり、家計債務が雪だるま式に増え続けることとなりました。
現在は貸出規制が厳格化されていますが、過去の緩和期に増加した家計債務が依然として尾を引いています。
サラリーマンの早期退職
韓国企業でも60歳定年が義務化されているとはいえ、実質的な雇止めが横行し、多くのサラリーマンは40~50代前半に会社を辞めてしまいます。これらの早期退職した中高年層がチキン店などの自営業を始めるために借金をするケースが多く、自営業者の割合は(25%)を超えています。当然ながら、それにともない破綻する自営業者の数も増え続けています。
階層の「固定」から脱するための投機
韓国では固定化された「階層」から脱するために、借金をして投資することがブームになっています。大学を卒業してもコネがなければ就職できないという社会の閉塞感から脱するために、「一発当てるしかない」と考える若年層が、借金してまで投資をする傾向があります。
危険水域に達した韓国の投貨ブーム
投資ターゲットはビットコインに留まらない
韓国の30代は、所得の(40%)を借金返済に充てています。韓国銀行は借金の用途について言及していませんが、かれらは「階層を抜け出す最後の手段」として、借金して不動産や株、仮想通貨を買っているのです。
ビットコインについては「キムチプレミアム」と呼ばれる、韓国でだけ高価に取引されている傾向があるほど投資が加熱しています。2022年になってビットコインは値を戻していますが、直近の最高値には届かずに失速しそうだという観測がされています。あらたな借金が難しいなか、現状の資産(不動産や株式、仮想通貨)で勝負するしか方法はありません。ぎちぎちに借金をして投資している韓国人の阿鼻叫喚が聞こえてきます。
このほか、多くの韓国人が「ジャブコイン」と呼ばれる仮想通貨にも賭け金を積んでいますが、これは非常に危険な傾向です。
韓国の投資家は株式投資でも苦戦が続く
株式投資については、仮想通貨投資と異なる傾向があるようです。「東学アリ」と呼ばれる若い世代の投資家は、サムスン電子やLGといった大型株を好んで買っています。
ウクライナ戦争が起きたと同時に「銃声が鳴ったら買い」とばかりに、少しだけ下落したサムスン電子に飛びついた投資家も多かったのですが、その後半導体がだぶつくとの予測により、サムスン株は下落が続いています。
サムスン電子株はじりじり下落していて、含み損を抱えて不安がつのっています。2021年に8万ウォンをつけたサムスン株は、2022年5月現在、67,000ウォンレベルです。株式投資にしても、借金して投資をするには最悪のタイミングでした。
政策金利の上昇が招く借金投資家の阿鼻叫喚
韓国では政策金利が上昇途上にあります。前述のように、過剰な不動産投資を抑制するためと、アメリカの金利上昇への対策という2つの意味があります。
円安と同様に、韓国ウォンも下落傾向です。韓国銀行はあからさまに通貨介入してウォン安に抵抗していますが、中長期的には下落を食い止めることは難しいでしょう。
韓国ウォンの下落が為替におよぼす影響
企業の業績悪化や家計負債の拡大などによって韓国ウォンが暴落しても、世界為替におよぼす影響は限定的だと考えられます。もっとも、かつてのアジア通貨危機のような世界的な広がりがあれば状況は異なります。
2022年に入ってから、コロナパンデミックやウクライナ戦争の影響などにより、新興国企業のデフォルト率が高まっています。2022年4月にスリランカが一時的な国家デフォルトを宣言し、IMF(国際通貨基金)に緊急融資を要請しました。われわれトレーダーとしても、マイナー通貨への投資は予断なく、その動向に注目しておきたいところです。
コメント