「損切り」は、投資におけるセオリーとして初心者が最初に学ぶべき項目のひとつです。適切な損切りができなかったためにロスカットの憂き目にあうなど、資産を大幅に減らした失敗例は枚挙にいとまがありません。
しかし、そのような王道ともいえるセオリーを無視した「トラップリピートイフダン(トラリピ)」というシステムが人気を博しています。今回は、初心者によるナンピン戦術を基礎にした「トラリピ」の導入の可能性について詳しく解説します。
ナンピン戦術は万能か
ナンピンとはなにか
「ナンピン」とは、買いポジションを建て、相場が下がった場合にさらに買い増しをする手法です。ナンピンの目的は平均取得価格を下げることです。具体的にそのテクニックをみていきましょう。
①(ドル/円)を(ドル=120円)で買う ②その後(115円)にレートが下がった時にさらに同量のドルを買い増しする ③平均購入価格は(120円+115円)÷2=(117.5円)になる
この先、為替が(117.5円)を超えれば、損益はプラスに転じます。買い増ししたことにより(120円)に戻るまで待たなくても利益が出るわけです。これが「ナンピン」戦術です。
ナンピンの危険度
ナンピンには危険な側面が存在します。ナンピン戦略の前提は、時間がかかってでもかならずレートが戻ることです。一般的に為替は、いつかは元値に戻る可能性が高いといわれていますが、それが1か月後か、それとも1年後なのかは誰にもわかりません。しかも、その過程で為替は変動し続けます。相場が一方的に下がり続ける局面が長く続けば、ナンピンをすればするほど泥沼にはまり、含み損が膨らみ続けることになります。
こうなると、投資資金が枯渇した瞬間に、最終的に損切りもしくはロスカットされてしまいます。これがナンピンの最悪の失敗パターンです。
トラリピの仕組み
「トラップリピートイフダン(トラリピ)」はナンピンを自動でおこなうシステムで、「マネースクエアジャパン(M2J)」が特許を取得しています。マネースクエアジャパンに口座を開設すれば、誰でもこの戦略を利用することができます。
トラリピをひとことで表すと「ナンピン自動売買システム」です。最初に条件を設定しておけば、システムが自動的にナンピンでポジションを持ち、自動的に決済してくれます。
レンジ相場では威力を発揮
トラリピが効果を発揮する相場は、「レンジ相場」です。レンジの幅のなかでレートが上下する局面では最強の戦略といえるでしょう。たとえば(ドル/円)では(70%)がレンジ相場であるといわれています。
ところが、レンジがトレンド相場に移行すると、トラリピは一気に深刻な事態に陥ります。相場がレンジ幅を下抜けしてグングンと下降トレンドを形成すると、システムはどんどん買い増しを続けます。トラリピのシステムには損切りが組み込んでいないのです。
トラリピのポテンシャルの限界
レンジ相場からトレンド相場に移行する場面がトラリピの危険な瞬間です。したがって、このような場合はレンジ幅を相当大きく設定し、いずれ相場が戻ってくるまでの期間の含み損に耐えられる資金管理を徹底しておくという対策が考えられます。
もっとも、いつレートが戻るのかはわかりません。そもそも戻らない可能性すらゼロではないため、100%確実な対策とはいえません。これがトラリピの限界です。相場の下落が続くようであれば、自力で損切りしなければ大きな損失が発生するかもしれません。
トラリピで本当に勝てるのか
トラリピだけで資金を150万円から1000万円近くまで増やしたというトレーダーのブログを見つけました。ブログ主は某有名FXサイトのインタビューにこのように答えています。

難しいテクニックも必要なく、放置しておくだけで利益が出るなんて信じられません。トラリピには死角はないのでしょうか?

ありますよ。ひとつは含み損です、わたしもトラリピを始めてすぐ、150万円の資金に対して数十万円の含み損を抱えました。今現在も含み損を抱えていますが、これは仕方のないことです。いずれ利益を確定できると信じて耐えるしかありません。トラリピをやるためには、日組損に耐えるための資金が必要なんです。
以前は1万通貨単位でしか売買できなかったので資金は100万円程度必要でしたが、現在は1000通貨単位でできるようになったので10万円くらいあれば始められます。
トラリピは難しいテクニックが不要なので初心者でも導入できますが、やはり含み損に耐えられるだけの潤沢な余裕資金が必要であり、さらには、含み損の膨張に耐えるためのメンタルが必要とされるようです。
マイナー通貨のトラリピは危険
これもネットの古い情報ですが、(南アフリカランド/円)トレードにトラリピを活用して破滅したケースが紹介されていました。この人物(Aさん)は、破綻を迎えるまではまさに全戦全勝で、高額のスワップポイントも順調に獲得していました。Aさんの根拠は、南アフリカランドが(12円)を切ることはあり得ないという前提に立っていました。
2008年当時の南アフリカランド円は(15〜18円)のボックス圏を形成していました。しかし、その後の大暴落によって、Aさんはあっさりと口座破綻に追い込まれたのです。このときのAさんの資金管理の状況は明らかではありませんが、かりに大暴落による含み損に耐えられるほどの潤沢な資金を用意していたとしても、結果的にはプラスに転じることはありませんでした。
大暴落の後、南アフリカランドの相場が(12円)ラインにまで回復したことは一度もなく、2022年4月現在、為替は(8円)台を推移しています。もしAさんが破綻を回避できていたとしても、莫大な含み損を抱えた状態が10年以上続いていることになります。
損切りしないリスクを理解しよう
損切りをしないトラリピは、一見破綻の可能性が少なく、手間もかからないことから魅力的なシステムであるように思えます。しかし、「まさか」があるのが相場の世界です。単純な戦術であるだけに、状況を見誤ると退場を余儀なくされるほどの損失を食らう可能性があります。
自動売買システムであっても、いざとなれば自主的に損切りしなければならない場面も訪れます。その点をしっかりと見極めて、このトラリピのようなシステムに取り組む必要があるでしょう。
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