FRB(米連邦準備制度理事会)がすすめるアメリカの金利政策の動きが活発です。2020年から継続してきたゼロ金利政策を解除し、大幅な金利引き上げに転じたからです。今回は、アメリカの金利上げがマイナー通貨にどのような影響を与えるのかについて、韓国ウォンをサンプルにして解説します。
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国内経済と金利の関係
国内景気と金利の関係
一般的に、景気が良いときはモノがよく売れるので、企業はモノを作るための原材料の購入を増やし、積極的に設備投資をおこないます。従業員の給与やボーナスも増えると消費意欲が高まり、将来への不安も後退することから、積極的にモノやサービスを購入するようになります。このようにして好景気の循環が起こると、お金の需要が増え、金利が上昇します。
国内物価と金利の関係
経済活動が活発におこなわれるとモノの価値が上がるので、物価が上昇します。モノやサービスを買うために必要なお金の量が増加すると金利は上昇します。
為替レートと金利の関係
自国通貨が安くなると、国内物価は輸入価格の影響を受けて金利が上昇します。このほか昨今では、国別、地域別の財政リスクなどによって金利や為替が変動する現象が顕著です。
なぜアメリカは金利上げに舵を切ったのか
FRBの決断を促した国内物価の急上昇
これまでアメリカは景気浮揚対策として「ゼロ金利政策」を維持してきましたが、経済環境の変化にともなう諸事情を鑑みて、FRBは金利アップのタイミングを図っていました。しかし、コロナパンデミックによる景気回復の見込みが不透明ななか、その決断は大きく遅れていました。
しかし、そうこうするうちに、ロシアのウクライナ侵攻により、原油価格や穀物価格、鉱物資源価格が急騰したことから、いよいよ「待ったなし」の状況になったのです。
アメリカ経済は好調を維持している
ジェローム・パウエルFRB議長は2022年3月におこなわれたFOMC(連邦公開市場委員会)の後の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻の影響により高インフレが長期化する可能性があるとの認識を示しながら、今後の利上げについて以下のように語っています。

アメリカ経済は非常に堅調であることから、金利の目標レンジを継続的に引き上げることが適切であると考える
国内経済が好調を維持するとの予測から、FRBはようやく利上げに舵を切ることができたのです。
段階的な金利アップ
アメリカの政策金利は2022年3月までゼロ金利(0.25%)をキープしていましたが、3月中旬におこなわれたFOMC(連邦公開市場委員会)において(0.5%)へと見直し、5月には(1.0%)まで引き上げられる予定です。
今後、FRBは6月と7月の二度にわたって、さらにビッグステップ(0.5%ずつの利上げ)を踏む可能性があるといわれています。
マイナー通貨とアメリカ金利政策
アメリカの金利政策とマイナー国通貨の為替には密接な影響があります。その仕組みについて解説していきましょう。
ドルキャリーの巻き戻しが起こる
「ドルキャリー」は、アメリカが低金利で新興国が高金利のケースにおいて、その金利差を利用して利益を得る方法です。低金利のアメリカからドルを調達し、高金利の新興国に投資すれば、金利差が確実に儲かるのです。
新興国は高金利政策をとって自国への投資を促してきましたが、アメリカの金利上げ方針により、資金の逆流の懸念が高まっています。いわゆる「ドルキャリーの巻き戻し」現象です。
もっとも影響が大きくなる新興国とは
アメリカ金利が及ぼす為替相場への影響は、当該国の実体経済との関連もあって判断は単純ではありませんが、常識的に考えて、アメリカとの金利差が小さい新興国通貨ほど大きく為替が下落する可能性が高いと考えていいでしょう。注目すべきは韓国です。
韓国の金利政策とウォンの今後
アメリカよりも金利が高ければドルキャリーの逆流は起きにくいのですが、韓国は比較的低金利なので、影響は必至とみられています。それなら、韓国も金利を上げればいいのですが、問題は単純ではありません。
米韓の金利が並ぶかもしれない
2022年1月に韓国の政策金利は(1.0%)から(1.25%)に、4月にはさらに(1.5%)への引き上げが発表されました。アメリカの金利政策への対策です。4月時点での金利は、韓国(1.5%)に対してアメリカ(0.5%)ですが、今後、FRBがさらに6月と7月の二度にわたってビッグステップ(0.5%の利上げ)を決断することになれば、米韓の政策金利は並んでしまう可能性もあります。
これは韓国にとって非常に危険な状況を招きます。多くの経済評論家が、外国資本を留めておくために必要な米韓の金利差を(1%)以上と指摘しているからです。
金利アップが難しい韓国の国内事情
物価高騰と値上げラッシュで消費が落ち込んでいるところに、金利の引き上げは韓国経済にとって厳しい状態をつくりだします。
金利を上げれば資金繰りが厳しい国内の中小零細企業や自営業者が支払う利息が増え、破綻するリスクが一気に高まります。さらに大きな障害物は家計負債です。家計債務の利息が増えると個人消費の停滞にも拍車がかかります。
本来であれば、韓国経済はむしろ金利を引き下げるべき状況にあるのです。
アメリカの金利上げはさらにすすむか
アメリカが6月と7月に続いて、年内残りの9月、11月、12月のFOMC会議のたびに(0.25%)の利上げをおこなえば、2022年末の米国の政策金利は最大で年(2.5~2.75%)水準になります。こうなると韓国と米国の金利は逆転し、ウォン安がさらに加速する恐れがあります。
韓国は利上げを決断できるか
韓国は利上げをおこなうかどうかの決断を迫られています。米韓で(1%)の差を維持するためには、7月時点で最大(2.0%)まで、年末時点で最大(3.75%)の利上げの可否が問われますが、国内経済の事情を考えれば、おそらくそのような決断は難しいはずです。
なぜか楽観的な韓国政府
韓国政府は3つの理由をあげ、「米金利の影響はほぼない」として楽観視しています。
(1)低い株価水準 (2)肯定的な成長見通し (3)高い信用格付けと外貨準備高
金利の引き上げなく、この3つの根拠が成立し続けるどうか、猫道場主には判断できません。一方で、韓国の外貨準備高がジリジリと目減りしているという現実があります。結局のところ、韓国政府の大幅な金利変更の決断は、韓国銀行が継続しておこなっている為替介入(いわゆる韓銀砲)がどこまで機能するかにかかっているように思います。
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