急激な経済発展を遂げた中国は、いまや日本を抜いて世界第2位の経済規模を誇り、2030年までには中国の国内総生産(GDP)はアメリカを凌ぐとの予測もあります。第二次大戦後、「基軸通貨」と呼ばれているのは一貫して米ドルだけですが、中国政府は人民元の第2の基軸通貨化を目指しているといわれています。
今後、人民元は国際通貨になり得るのでしょうか。「デジタル人民元」の可能性についてもあわせて考察していきます。
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中国政府はなぜ人民元を基軸通貨にしたいのか
基軸通貨の歴史
第一次大戦前までは、英ポンドが基軸通貨の地位にありました。しかし、世界恐慌や2度の大戦で英ポンドによる基軸通貨体制は崩れ、第二次大戦後は一貫してドルが世界の基軸通貨のポジションを維持し続けています。「ドル基軸通貨体制」により、各国通貨の為替レートは唯一の基軸通貨ドルとの間で決められています。
中国政府の思惑
ドルが基軸通貨の地位を占める以上、中国もアメリカを無視することはできません。米中関係が今後さらに悪化し、ドルの使用を禁止されるような事態になれば、経済的に大きなダメージを受けるのは必至です。
中国の究極の目的はアメリカにとって代わり、世界経済の中心として君臨することであり、アメリカの影響力を削ぐために、人民元を「第二の基軸通貨」に据えるというのが中国政府の狙いです。
人民元が基軸通貨になるための高いハードル
しかし、結論からいえば、この先10年スパンで考えても、人民元が第2の基軸通貨になる可能性はないというのが大半のエコノミストの意見です。人民元にとって、基軸通貨になるための条件をパスするためのハードルがあまりにも高いのです。
基軸通貨の第一の条件として「使い勝手の良さ」があり、その実質的な意味は「広く使われる」という優位性です。広く使われる通貨は、その通貨の発行国が世界経済において重要な存在であることを示しますから、その大きなポイントは「信頼性」ということになるでしょう。
閉鎖的な中国の金融システム
閉鎖的な為替制度
人民元は「管理変動相場制」を採用しています。政府主導による為替操作により、人民元は対ドルで当局が営業日ごとに定める基準値(±1%)の範囲でしか上下動できない仕組みになっているのです。
外国為替取引は実需と投機に分類されます。たとえば円を対価とする外国為替取引の場合、その(90%)以上は投機です。人為的に為替操作がおこなわれている人民元には投機の旨味は存在せず、将来的に「変動相場制」に移行しないかぎり、取引量が増えることは望み薄です。
独立性のない中央銀行
中国人民銀行には自由主義国家のような独立性がなく、政府によって対内外ともに資本取引が管理されています。金融や資本市場が自由化されていないため、実需の投資を呼び込むことも難しいのです。
人民元をめぐる光明と重い課題
人民元の通貨バスケット入り
2016年に人民元は「通貨バスケット」を採用しました。通貨バスケット制は、複数の通貨を入れた「バスケット」を想定し、通貨ごとの比重を決めて交換レートを算出します。たとえば(ドル50%)(ユーロ35%)(日本円15%)といった具合です。組み入れた各通貨の強弱が相場の動きを相殺するので、為替の安定性を維持できる可能性が高まると考えられています。
課題解決には時間がかかる
中国経済はいくつもの矛盾を抱えています。過剰な不動産開発や格差の拡大、金融システムの脆弱性など、克服すべき構造的な課題解決は容易でなく、実現できるとしても相当の年数を要するでしょう。
中国が構造改革に成功し、資本や為替の自由化を果たしたとしても、最後の壁として立ちはだかるのが、ドルが構築するネットワークです。人民元のネットワークが、確立されたドル中心の国際決済インフラの優位性にとって代わることは現実的とは思えません。
デジタル人民元の可能性
最後に「デジタル人民元」の可能性について考察していきましょう。
デジタル人民元の仕組み
スマートフォンに専用アプリをインストールし、店舗にある読み取り機での支払いのほか、支払人と受取人のスマホをタッチするだけで決済できるなど、広い利便性がデジタル人民元の特徴です。2022年2月の北京五輪では、外国人向けにデジタル人民元を提供するなど、注目を集めました。
デジタル人民元の目的
デジタル人民元の目的は、人民元の流通範囲の拡大とともに、当局が通貨安定のために利用状況をモニターすることにあります。
近年、中国では経済成長が限界を迎えたとの見方から、富裕層が海外に資産を持ち出す懸念が高まっています。現金の持ち出しを摘発することは難しいため、共産党政権は法定通貨をデジタル化し、資金フローの監視とコントロールの強化を目指しているのです。
デジタル人民元はアメリカとの通貨戦争を制するか
いまだデジタル化されていないドルに代わって、人民元がデジタル通貨の中心になれば、人民元にとって強い追い風になります。習近平国家主席が掲げた「一帯一路」の広域経済圏にデジタル人民元が定着すれば、より強固な国際化につながる可能性が高まります。
将来性に満ち溢れているように見えるデジタル人民元ですが、その最大のネックは、中央権力の管理下に置かれているという点です。中国人民銀行は匿名性を担保するとしていますが、にわかには信じられません。中央政府のさじ加減によって恣意的な運用をされるのであれば、その信頼性は低いままに留まるでしょう。
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