株式の世界に「1カイ2ヤリ」という言葉があります。「1カイ」とは「1円で買う」こと、「2ヤリ」は「2円で売る」という意味です。株を101円で買って102円で売るといった、わずかな値動きによる利ザヤを狙う戦術のことです。FXにおける「スキャルピング」も、これと同じような取引スタイルといえるでしょう。
極端なケースでは、「1カイ2ヤリ」には、株式を1円で買い、2円になったら売るという投機的な株取引もおこなわれています。
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1円株とはどんな株なのか
インターネットの質問コーナーでは、ときどきこのような投資初心者からの質問を目にすることがあります。

1株1円から2円を行き来している株があるんですが、1円のときに買って2円で売れば確実に利益が出ますよね?
そもそも「1円株」とはどんな株なのでしょうか。
1円株とは整理ポストに割り当てられた株式のこと
「1円株」というのは、経営破綻した企業の株式のことです。
上場企業の業績が悪化すると、当該企業の株式は、投資家に注意喚起を促すことを目的とした「監視ポスト」という場所に割り当てられます。そこで企業の業績確認をして、ふたたび上場基準を満たせば通常の銘柄に戻ることができますが、基準を満たせなければ「整理ポスト」に割り当てられます。
整理ポストでも取引は継続する
株式が整理ポストに割り当てられると手放す人が増え、どんどん株価は落ちていきます。そして、最終的に株価は、再下限である1円まで下落することがあります(ゼロ円にはなりません)。これが「1円株」です。当該株式は原則として1か月間、整理ポストでも引き続き売買がおこなわれた後に「上場廃止」となり、以後取引はできなくなります。
証券会社による破綻した企業株の買い取り
そのほか、証券会社が上場廃止前に整理ポストの株式を1円で買い取るケースがあります。
整理ポストの株式はほとんど売れない
整理ポストに移管された株式は上場廃止までは取引可能ですが、現実問題として、いずれ価値がゼロになってしまうような株を買う投資家はほとんどいません。
当該株式を保有する企業や投資家は、株式を売却して譲渡損を出すことができれば、翌年以降3年間の譲渡益と相殺できるのですが、買ってくれる相手がいなければどうしようもありません。
証券会社による顧客サービス
そこで、証券会社が1株1円で買い取るというサービスを始めました。投資家にとっては、売ることのできないクズ株を証券会社が買い取ってくれれば、株式の売却損失を翌年以降の利益と相殺することができます。
同じようなことは、破綻しかけているゴルフ場の会員権についてもいえます。破綻しそうなゴルフ場の会員権は3万円~5万円で会員権業者が買い取ってくれます。すると、ゴルフ場会員権の買値と売値の差額により、会員権所有者は給与所得などと相殺して、所得税額を抑えることができます。
証券会社やゴルフ会員権業者にとって、1株1円や1口3万円程度の出費は微々たるものです。要するにこれらは、顧客向けサービスというわけなのです。
1円株のマネーゲーム
1円株のマネーゲームに話題を戻しましょう。
整理ポストの株が(1円~5円)程度の幅で変動している場合があります。これは、売買がおこなわれている証拠です。ここには個人投資家も機関投資家も加わっているかもしれません。
たとえば個人投資家であれば、1円の株を10万株買い、5円で売れれば 50万円になります。最悪掛け金がゼロになるかもしれませんが、「10万円程度の損失ならいいか」と軽い気持ちで参加する人もいるのでしょう。
1円株投資が現実的ではない理由
このような前例をみると、1円株取引には魅力があるように思えます。しかし結論をいえば、この手法で儲けるのは現実的ではありません。
個人投資家は機関投資家に勝てない
売り手よりも買い手のほうが少ない
株を1円で買った投資家全員が「2円の売り指値注文」を出しています。売り手より買い手のほうが圧倒的に少ない状況の中で、売れるかどうかは早い者勝ちなので、順番の列の先頭近くに並んでいないと売りそびれてしまいます。
アルゴリズム取引の圧倒的なスピード
こうなると、個人投資家は俄然不利です。現代の機関投資家の手法は「アルゴリズム取引」が主流です。
1秒間に数千回というスピードで注文を出すことができるシステムに対して、人間の反射神経では到底太刀打ちできません。個人投資家がいくら性能の良いパソコンを使っていても、機関投資家が使う高性能のコンピューターにはスピード負けしてしまいます。
手数料問題
1円の値動きで利益を狙う売買手法は、一発逆転でレバレッジ取引する以外に、1円~2円の値動きに合わせてトレードを繰り返す手法があります。この手法で問題となるのが取引手数料です。
大手証券会社では現物と信用それぞれで100万円まで手数料無料というサービスを提供しているところもありますが、売買を繰り返すと、あっという間に無料範囲外になってしまいます。こうなると手数料倒れになってしまいます。
そもそも取引が成立するかどうかが問題
1円買いで利益を出すためには、2円以上で買う人がいなければ成立しません。しかし、現実的には、整理ポストの1円株は1円のまま、つまり取引がないまま上場廃止になるケースがほとんどです。そして上場廃止になった瞬間に、株価はゼロになります。トランプの「ババ抜き」と同じで、最後に株を握っていた人がドボンになってしまいます。
1円株投資は時間の無駄
アルゴリズム取引が猛威を振るう市場において、1円株取引は個人投資家にとって参入障壁が難しい領域であると感じます。素人が参入しても、機関投資家のアルゴリズム取引にスピード負けするのがオチです。
したがって、遊びでトライすることについてもあまり感心しません。お金は大事です。「10万円ぐらいなら、最悪なくなっても」という軽い気もちでチャレンジするぐらいなら、そのお金で普通に株式やFXをやるほうが建設的です。
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